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オリーブオイルの風味を評価する世界共通のものさしー 「官能評価」の必然性

オリーブオイルの最大の魅力。それは同じ品種のオリーブオイルであっても収穫生産の年によって、搾油時期や搾油方法やブレンドの仕方、そして管理状態や保存状態でまったく異なる「風味」を楽しめることではないでしょうか。特にエキストラバージン・オリーブオイルはオリーブの果実を絞ったオリーブジュースで化学処理や加熱処理を一切行わないため、果実の個性がそのまま残りさまざまな風味が生まれるのです。そんなオリーブオイルの風味を一定の条件のもとで評価する「官能評価」というオリーブオイルの品質を評価するアプローチがあることをご存知でしょうか? 【 オリーブオイルの風味を評価する世界共通のものさしー 「官能評価」の必然性 】

日本オリーブオイルソムリエ協会®では、ソムリエの育成において風味官能評価やテイスティング技法を学ぶ機会が設けられていますが、国際オリーブ協会(IOC: International Olive Council)が定めている官能評価では選抜、訓練、評価能力の維持管理されたテイスターたちによるパネルがバージンオリーブオイルの風味を評価します。品質や純度、汚染物質等を確認測定する化学分析だけではわからない、バージンオリーブオイルのグレードを評価するための大切な方法です。[1]

官能評価方法が作られた背景を、国内食品メーカーでオリーブ油の品質管理や官能評価(風味鑑定)、品質保証業務に従事してきた自身の視点から振り返ってみたいと思います。 水野勢技世

オリーブオイルの品質評価には「共通のものさし」が必要だった

IOCによると、オリーブオイルへの官能評価の適用は1970年代にスペイン・セビリアの油脂研究所で始まりました。その後、1981年からIOCは国際的に認められる方法を開発するための研究を開始。1982年から1986年にかけて、6か国の専門家たちが開発を進め1987年、IOCは「バージンオリーブオイルの官能評価方法」を採択しました。今から約40年ほど前のことです。[2][3]

オリーブオイルになぜ、わざわざ世界共通の評価方法が必要だったのでしょうか。それはオリーブオイルの「風味」をできるだけ客観的に評価する必要があったためです。人が感じる風味は単に舌で感じる味覚だけでなく、五感や過去の記憶、環境などが複雑に絡み合って作られる多感覚的な体験です。そのため、同じ食べ物を口にしても、人によって感じ方がまったく異なることがあります。そのため、オリーブオイルの品質を評価する上で、風味を測る共通の「ものさし」が無いことが長年の課題でもありました。

オリーブオイルの風味を評価する世界共通のものさしー 「官能評価」の必然性

エキストラバージン・オリーブオイルはオリーブの果実を絞ったまさにオリーブジュース

「オリーブのフルーティな香りが強い」「苦味がある」「辛味がある」――。人によって感じ方や表現が違えば、同じオイルを評価していても話がかみ合うはずがありません。同じ条件で、同じ考え方で、共通の言葉を使って評価する。それが、オリーブオイルの品質を語るうえで、とても重要なことでした。

希望する風味が、現地生産者に伝わらないジレンマの日々

実は私自身、官能評価の重要性を強く実感したあるでき事がありました。それは、オリーブ油の品質管理や官能評価(風味鑑定)、品質保証業務に従事していた1996年ごろのことです。当時所属していた企業では社内で独自に確立した方法でオリーブオイルの官能評価を行っていました。

それはちょうど、国内でイタリア料理の広がりなどを背景にエキストラバージン・オリーブオイルへの関心も高まっている時期でもありました。当時私たちはスペインの取引先からオリーブオイルを輸入していたのですが、スペインの取引先から届くオイルには、社内で求めている風味とはかなり異なるものもあったのです。特に、スペインが大干ばつだった年、逆に雨が多すぎた年など気候の影響により風味の傾向が変わったときは、安定した品質のオリーブオイルをお客さまに届ける使命がある品質管理担当者としては相当悩みました。

現在の官能評価ルールからすると無謀なことであったと思いますが、当時は微妙な風味のギャップを正しく評価できているかを確認するために、同じオイルを何度も口に含んでは吐き出し、再び評価することを自らに課していました。それを繰り返しているうちに、舌がほとんど感覚を失うような事態にも陥りました。

オリーブオイルの風味を評価する世界共通のものさしー 「官能評価」の必然性

オリーブオイルのテイスティングに青や有色グラスを使う理由は、オイルの色に先入観やバイアスを持たず、香りや味わいだけで純粋に品質を評価するため。国際オリーブ協会(IOC)の規定に基づいた公式なテイスティング方法であり、世界中のコンテストや専門家の審査で採用されています

しかし、あるときハッと気づいたのです。

「自分たちが求める風味のオイルを手に入れるには、現地スペインと同じ評価用語で、同じ方法で官能評価を行わなければ話にならない」と。風味の評価結果を社内基準である合否で終わらせるのではなく、風味鑑定を行う者として「なにを感じているのか」「求める風味の程度はどのくらいのものなのか」が通じていないことに愕然としました。

評価者の主観、経験によって評価結果にブレが生じやすいが、機械では十分測定できない人間が実際に感じた複雑且つ心地よい味わいを、相手と共有できる言葉で伝える。それができていなかったのでスペインの生産者との間に永遠に不毛なやりとりが続いていたのです。同じ言語で風味の違いを語るためには、共通の「ものさし」が必要だと気がついた瞬間でした。

遠い日本の片隅で一担当者がそんなことを考えていた頃、世界でも、オリーブオイルの風味を共通の方法で評価しようとする取り組みが進んでいたのです。

現在も進化し続ける官能評価方法

少し専門的な話になりますが、現在IOCが定めている「バージンオリーブオイルの官能評価方法」は、COI/T.20/Doc. No 15です。[1]現在につながるこの文書「COI/T.20/Doc. No 15」は1994年に暫定採択され、1996年には第1改訂版(Rev.1)が採択されました。[4][5]

そして、この文書はその後も改訂が重ねられ、2024年にはRev.11となっています。一度決めたら、それで終わりではありません。より適切により再現性のある評価ができるように、専門家が研究や検証を重ねながら方法そのものを見直し続けているのです。

「風味」という、人の感覚に関わるものをできるだけ客観的に評価する。これは、考えてみればとても難しいことです。だからこそ、長い時間をかけて、世界中の専門家が知恵を持ち寄って進化してきたのだと思います。

世界共通のオリーブオイル愛が、ものさしの精度と品質を向上させる

オリーブオイルの官能評価について調べていると、ときどき無性に胸が熱くなります。国が違っても立場が違っても「よりよいオリーブオイルを届けたい」「このオイルの素晴らしい風味を表現し、きちんと伝えたい」という思いは世界共通であると感じさせるシーンにたびたび出会います。そうした、オリーブオイルを愛するさまざまな人たちによって積み重ねられてきた技術と知恵が、今、私たちがオリーブオイルを選ぶときの「ものさし」の一つになっているのです。

普段何気なく口にされているオリーブオイル。その一滴の向こうに、長い年月をかけて真剣に風味と向き合い、感じた風味をどのように伝えるかを思案し続けてきた人たちの歴史があります。そんなことにも想いを巡らせていただきながら、皆さんの食卓でオリーブオイルを使っていただけたら、オリーブオイル愛に満たされ歩んできた私にとっては何よりうれしいことです。 【 オリーブオイルの風味を評価する世界共通のものさしー 「官能評価」の必然性 】

次回は、官能評価の現場の様子やルールについて、少し具体的にご紹介できればと思います。

【参考文献】

[1]International Olive Council, Sensory analysis of olive oil – Method for the organoleptic assessment of virgin olive oil, COI/T.20/Doc. No 15/Rev. 11/2024.

[2]International Olive Council, The organoleptic assessment of virgin olive oil, 9 January 2020.

[3]International Olive Council, Resolution No. RES-5/56-IV/87 – International method for the organoleptic assessment of virgin olive oil, 18 June 1987.

[4]International Olive Council, Resolution No. RES-2/71-IV/94, 17 November 1994.IOCの公式資料では、この決議によってCOI/T.20/Doc. No 15が「provisionally adopted(暫定採択)」されたことが確認できます。
IOC公式資料(1994年のRES-2/71-IV/94を引用)

[5]International Olive Council, Resolution No. RES-3/75-IV/96, 20 November 1996.IOCの公式資料では、この決議によってCOI/T.20/Doc. No 15/Rev.1が採択されたことが確認できます。
IOC公式資料(RES-3/75-IV/96を引用)

   
     
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