「OLIVE JAPAN® 2024 国際オリーブオイルコンテスト」審査を終えて
2年続いた歴史的な干ばつによる大凶作のスペイン、そして大雨洪水に見舞われたイタリアのオリーブ産地。激しい気候変動に見舞われながら、世界最高水準品質のオリーブオイルが集まるといわれる「OLIVE JAPAN® 2024 国際オリーブオイルコンテスト」では、いったいどんなオリーブオイルがエントリーされ、受賞したのでしょうか。受賞商品はすべてこちらのOLIVE JAPAN®公式ページでご覧いただけますが、その審査の模様や今年のオリーブオイルの特徴などをまとめてみました。
~ 日本オリーブオイルソムリエ協会理事長 多田 俊哉
1.今年度の審査会の様子
今年のOLIVE JAPAN®国際オリーブオイルコンテストでは、5月8日より予備審査ならびに5月30日〜31日の本審査により厳正な審査を行いました。13年目を迎えた今年は、予備審査に日本オリーブオイルソムリエ協会所属のオリーブオイルソムリエ、マスターオリーブオイルソムリエ15名が新たに審査に加わり、本審査でも海外の審査員14名、日本人審査員6名の計20名のオリーブオイルの専門家から成る熟練したエキスパート陣によって厳正な審査が行われました。
日本オリーブオイルソムリエ協会のテイスティング講座等においても、コンテストの審査会を念頭においた訓練を施す機会が増えており、日本人審査員のレベルはこの数年で格段に上がり、審査会では海外の審査員と風味や評価のディスカッションが活発に行われていました。
OLIVE JAPAN®コンテストの大きな特徴の一つは、商品を審査員一人ひとりがテイスティングして審査を行うことはもちろん、テイスティングをした上でさらにグループでディスカッションを行って賞を決めることにあり、リモート審査ではできない厳格で正確な審査を行っています。また、様々な国から集まる審査員同士のディスカッションは、相互の技術の切磋琢磨にもつながり、講座とはまた違う実践的な訓練学習の場ともなっていて、それが日本人審査員の技量向上にもつながっています。
2.今年度のエントリー状況
今年度のエントリー総数は766品、その中から最優秀賞8品、多田俊哉オリーブオイルソムリエ特別賞10品、金賞318品(特別賞含む)、銀賞207品(いずれも6月17日現在)ならびに各国ベスト賞を決定しました。
オリーブオイル生産量世界一のスペインの生産量が気候変動による干ばつで激減、スペインからのエントリーも例年の80%程度にとどまりましたが、それでも200品以上のエントリーがあり、また同じく作柄が厳しかったイタリアからも120品とまさに真の国際コンテストを名乗るのに相応しいコンテスト規模となりました。
3. 受賞商品の風味や品質の傾向について
まずは最優秀賞を受賞された8品の生産者さん、輸入販売等に関わっている皆さん、本当におめでとうございます!最優秀賞8品の内訳はスペイン産4品、イタリア産3品、アルゼンチン産1品でした。
大凶作の続くスペインから4品もの最優秀賞を出したことは驚くばかりですが、干ばつにあっても変わらず品質を維持できる生産者が存在することは、スペインのオリーブ栽培技術の高さを物語ります。もちろん、どの生産者にあっても生産量は激減していますが、干ばつのリスクを先読みして対策を施し、何年もかけて栽培技術や潅水設備、そして気温が高い中にあっても品質に影響を及ぼさない果実の冷却や適正な貯蔵施設への先行投資が実を結んだものと言えそうで、それは気候変動に悩むイタリアでも同様でしょう。
イタリアの受賞3品は、プーリア州、カンパーニャ州の南部地域からの出品に集中していて、いずれも南部の主力品種コラティーナ種が選ばれました。もちろんイタリアにはコラティーナ種以外にも風味の優れた品種はたくさんありますが、その多くが天候の影響を受けて持ち前の風味個性を発揮できなかったり、生産者の多くが質よりも量を優先した結果、例年以上に完熟搾油傾向が高まり、凡庸な品質になってしまったものが多く見受けられました。
そんな中で、最優秀賞を受賞した3品の生産者は、品質のためならどんなことでもいとわないというような生産者ばかりです。はからずも、気候変動がオリーブオイルの品質に与える影響は甚大であり、そうした中で高品質のオリーブオイルを作り続けることは、ますますコストと労力がかかる、ということをまざまざと見せつけられた、そんな年となったような気がします。
さて、南半球は、そうした激しい気候変動とは無縁、とこれまで考えられてきましたが、南米最大のオリーブ生産地であるアルゼンチンでは、ラニーニャ現象による干ばつに悩まされるようになっています。直近では2022年の干ばつやラニーニャ現象によるものと考えられる晩秋の熱波が2023年、2024年と連続して起こり、収穫時期の管理を難しいものにしています。特に今年は3月まで熱波が続いた後大雨に見舞われて収穫の比較的遅いコラティーナ種などに大きなダメージを与えました。
最優秀賞を受賞したアルゼンチン固有品種であるアラウコ種も、熱波に見舞われながらの収穫となり相当な苦労があったと推測されますが、例年同様の素晴らしい品質を達成して受賞に至りました。
4. 生産量の減少が品質に与える影響について
766エントリー品のうち、543品にはいずれかのメダル(賞)を授与していますが、残念ながら全体の約28%のオリーブオイルはメダルを逃しています。この数字は歴代のOLIVE JAPAN®コンテストの中ではかなり悪い方で、2024年は生産量だけでなく品質的にも厳しい年であったことを物語っています。
その理由は明白で、果実収穫量の激減にあえぐ中、多くの生産者たちが一滴でも多くオリーブオイルを搾り取ろうとした結果に他ならないと考えられます。つまり、果実のオイル含有量を高めるために収穫時期は遅くなり、どちらかというと未熟よりも完熟で収穫されていきます。一部の生産地では、収穫時期が3月にまで及ぶといったこともあったようです。こうした完熟での収穫は果実内のポリフェノール類の含有量を減少させ、スパイシーなオリーブオイルは作られづらくなっていきます。
また、搾油の時も、少しでも多くのオイルを搾り取るために高温で長時間練りこみ攪拌をおこなうようになり、フレッシュな風味は失われ、加熱臭や酸化・発酵の起こるリスクが高まっていきます。
このように、果実の減産は、品質の低下に直結していくものとなっていくわけです。受賞する「賞」の傾向でも、こうした完熟のマイルドなオイルが多かったことがうかがい知れます。
特に2024年は、受賞商品543品中実に62%にあたる336品が金賞以上を獲得しています。一見すると品質が良くてスパイシーなオイルが多かったように見えますが、実際は逆で、金賞受賞オイルの多くが、辛さも苦さも控えめなマイルドなオイルが多かったのです。
これは金賞が、必ずしも苦さや辛さの絶対的な強さだけを基準で選んでいるからではなく、苦さ辛さ、それにフルーティさのバランスに重きを置いて選定しているからです。つまり、スパイシーなオイルだけでなく、苦さ辛さが控えめなところでバランスしていれば金賞に選ばれる可能性は高くなり、実際今回のコンテストではそういったマイルドで苦さ辛さも弱いながらバランスしている、といったオリーブオイルがたくさん受賞しました。
5. 日本産のオリーブオイルの出品が過去最多
干ばつや天候不順による凶作にあえぐヨーロッパ主要産地をよそに、日本の国産オリーブの収穫量は過去最大となった2023年-2024年シーズン。夏場の乾燥はやや厳しかったものの、大きな台風の上陸もなく、またオリーブ樹に病気をもたらす秋の長雨も深刻なほど長期にわたらなかったために、各産地とも空前の収穫量となったことを受け、OLIVE JAPAN®への出品数も87品と、過去最多を記録しました。
主産地である小豆島からは11品、小豆島を含む香川県全体では19品ものエントリーがありこちらも過去最大となりましたが、驚くべきことに香川県以外に16もの府県からのエントリーがありました。
特に目立つのは、神奈川県から8品、福岡県からも8品、また大分県から7品、次いで静岡県から6品と続き、鹿児島・長崎・佐賀を加えた九州全体では23品と、香川県を超えるエントリー数となりました。
年々拡大する日本のオリーブ産地ですが、エントリー全体の30%がメダルを逃し、また金賞よりも銀賞の方が多いなど、品質的にはさらなる向上が必要であることもわかります。
生産者の絶対数は多くなっても、一社一社が零細で日本のオリーブオイル自給率を高めるには程遠いのが現状ですが、さまざまな産地の個性的な味わいのオリーブオイルを味わうことができるようになることも、楽しみの一つには違いありません。これからも国産オリーブオイルの動向や品質の傾向には関心を持ち続けていきたいと考えています。
6. 小売価格の高騰と今年の収穫の見通しについては?
今年は、冬場から何度もオリーブオイルの価格動向についてメディアの取材を受けました。量販店などに並ぶ小売商品の価格はすでに昨年から値上げを繰り返しており、オリーブオイルを買い続けることができないといった消費者の声や、あるいはスペイン料理店やイタリア料理店の悲鳴などがテレビ等で報道されたこともありました。たしかに2年連続で平年作の50%を切る大凶作(スペインの場合)は今まで経験したことがなく、ほぼ1年分の消費量以上に蓄えられていた「備蓄」も底をついた形となっていますが、産地の様子を見ると、状況は少し想像とは異なるようです。
昨今の日本のコメ不足は、スーパーの店頭からコメが消えるといったパニックに近い様相を呈していますが、スペインなどの産地のオリーブオイル市況は驚くほど静かです。たしかに価格は高騰しましたが、供給の少なさにパニックになる、といったことは起こっていません。それよりもむしろ需要が冷え込んで、高い価格ではほとんど買いが入らない、ということが起きています。
その理由は、オリーブオイルがどの市場においても唯一の食用油脂ではないことと、毎年毎年新しい収穫により新ロットの供給があることがわかっていて、必要以上にパニックになることもないからなのでしょう。価格が高いならば、今は買わなければよい、いずれ新物が潤沢に出てくれば価格も落ち着くであろう、といった見方が支配的ですし、現に2024―2025年シーズンは、大豊作が予想されています。
気になる今後の価格動向ですが、すでにスペインやイタリアの一部では収穫が始まっており、特にスペインでは史上最大級の大豊作が予想されています。春にたっぷり降雨があり、貯水量こそ従来の水準には戻っていませんが、オリーブの生育には十分な水が確保され、また、開花時期に受粉を妨げる強風や高温もなかったことから、きわめて順調に果実が生育しています。
ということで、豊作はまず間違いないものと考えられ、価格が従来の水準に戻るのは時間の問題とみられています。日本では円安となっていて為替の動向も気になりますが、輸入オリーブオイルの価格は徐々に低下していくことが予想されます。
7. オリーブオイルの選び方、活用のしかた
昨年もこのコラムで指摘しましたが、良いオリーブオイルの選び方の一つに、ワインと同じように、銘柄指名できるようなものをいくつか覚える方法があります。日本に輸入されているオリーブオイルは極端に数が多いわけではなく、しかも賞をとっている銘柄は毎年ある程度決まっているので、毎年品質がぶれない銘柄を覚えていれば安定的に良いオリーブオイルを楽しんでもらえると思います。
過去のOLIVE JAPAN®コンテストの結果などもチェックしてみて、継続的に賞を受賞しつづけている生産者の銘柄を中心に選んでみるとよいと思います。
一方で、「品質の良い」オリーブオイルを選ぶことができたとしても、それを効果的にお料理に活用できるのかは、別の問題です。
たとえば新鮮なホタテや生牡蠣を買っても、ホタテや生牡蠣に合うオリーブオイルを小売店の店頭でみつけだすことは極めて困難です。多くのオリーブオイル商品には中身のオリーブオイルの風味特徴までは記載されておらず、店頭でボトルを眺めているばかりでは、それが苦いのか苦くないのか?辛いのか辛くないのか?まったくわかりません。
OLIVE JAPAN®では、2022年より本格的に中身のオリーブオイルの風味特徴に切り込んでそのインデックスを付ける、ということも始めています。
たとえば、ホタテの刺身に合わせるなら、まろやかで苦さや辛さが抑えられたフルーティなオリーブオイルが良く合いそうですが、図にあるような特徴がハイライトされたオリーブオイルを選べば中身をテイスティングしなくても、使う目的に合ったオリーブオイルを選ぶことができます。
現在、このインデックスが徐々にボトルにも貼りだされるようになってきていますが、「eオリーブオイル選び」のサイトでオリーブオイル商品の検索をかける時も、すでにこの風味インデックスの各項目で検索できるようになっています。
オリーブオイルの風味の違いは驚くほど千差万別で、それを生かし切ってこそ、オリーブオイルの豊かな自然の恵みは私たちのQOLを高めてくれるものになるでしょう。そのためにぜひ品質の良いオリーブオイルを選び、「風味インデックス」を活用して料理に生かしてみてください。
編集部:
多田理事長、ことしも貴重なコラムのご執筆ありがとうございました。「eオリーブオイル選び」では、全受賞商品を、風味インデックス付き、商品写真付きで検索していただけるページをご用意しています。あわせる食材や風味の傾向に迷ったら、ぜひご活用いただければと思います。
そして、早くもこの12月には来年のOLIVE JAPAN® 2025のエントリー受付がスタートするようです。スペインでは史上最大級の大豊作が予想されているという多田理事長のお話もあり、日本を含め各国のオリーブオイルの動向を引き続きウオッチしていきたいと思います。