オリーブオイルがもたらす健康効果の思い込みと真実
皆さま、こんにちは。医師でマスターオリーブオイルソムリエ®︎の浅井洋貴です。前回の記事『オリーブオイルの優れた健康効果を引き出す食べ方にはコツがある』では、健康に良い食品の摂り方や、オリーブオイルの健康効果に関する情報は玉石混交であることをお話しさせていただきました。今回から数回にわたって、オリーブオイルを摂取することで、私たちの健康にどのような効果が期待されるのかについてお話ししたいと思います。【 オリーブオイルがもたらす健康効果の思い込みと真実 】
オリーブオイルの医学的効果に注目する医師が必ず目を通す論文
「健康」効果といっても様々で、私たち医師の間でも内科や皮膚科など、様々な専門分野でオリーブオイルのもたらす効能について、日々研究を進めている人たちがいます。そしてそれが研究論文として医学雑誌に掲載されるものも数多くあります。
今回はその中でも、オリーブオイルの医学的効果に注目している医師であれば、一度は見たことのあるような有名な論文に焦点を当ててみようと思います。
「New England Journal of Medicine」という、内科の世界では最も権威のある医学雑誌の一つに掲載されたこちらの記事 ”Primary Prevention of Cardiovascular Disease with a Mediterranean Diet Supplemented with Extra-Virgin Olive Oil or Nuts” (エクストラバージンオリーブオイルまたはナッツを添加した地中海食による心血管疾患の一次予防について)には、オリーブオイルを含めた地中海式食生活の健康効果が描かれております。
オリーブオイル中心の地中海式食生活で、心血管疾患発症リスクに明らかな違い
内容をかいつまんでお話しすると、心血管疾患(狭心症や心筋梗塞)のリスクの高い患者さん達を、オリーブオイルやナッツを中心とした地中海式食生活をするグループと、低脂肪食を中心とした食生活をするグループに分けて、数年単位で観察して、心血管疾患の実際の発症に差があるかを確認するといった研究です。
ここでは細かい統計学的考察は割愛しますが、この研究ではオリーブオイルを中心とした地中海式食生活を行った人たちの心血管疾患の発症リスクが、低脂肪食の人たちと比較して約3割ほど低下するという結果が検証されました。7000人規模の大規模な研究ですので、信頼性はかなり高いデータかと思われます(実はこの論文、実際の患者さんの割り付けに少し雑なところがあって、一旦論文を取り下げられるというハプニングがありましたが、後日再度その部分を修正して出されたデータでもほぼ変わらない結果でした)。
ポイントは以下
・この論文は信用に足りる、かなり大規模な研究結果であること
・地中海式食生活により、コレステロールの数値等でなく実際の病気の発症が抑える効果が見られた
という点です。
「オリーブオイルは悪玉コレステロール値を改善する」説に要注意
これは、一医療機関の一人の医師が、数十人程度の患者さんにオリーブオイルを勧めたら、みなさん悪玉コレステロールの数値が改善した、等という話とは全く別次元の話だということにご注意ください。
もちろん前回お話ししたように、心血管疾患発症リスクが押さえられたのは健康に良いものをやたらに摂ればいいということではなく、地中海式食生活ではオリーブオイルの他に、豆類やナッツなどを中心よってとして、タンパク質や脂質などもバランスよくとることになっています。効果の全てが単純にオリーブオイルによるものではないでしょうし、オリーブオイル単独の効果だけを厳密に2グループで比較するのは困難でしょう。
一つの調味料から健康効果を期待することには疑問も
そもそもオリーブオイルだけを単独でたくさん味わう我々オリーブオイルソムリエ®︎のような奇特な人たち(笑)を除けば、多くの人たちにとっては、オリーブオイルは食事を作る際の調味料といった位置付けだと思います。逆に誤解を恐れずに言えば、たかが調味料の一つで健康効果が違ってくるとなると、これはとても興味深いと言わざるを得ません。
この研究ではリスクの高い人たちが臨床試験の対象になっていますが、今後は生活習慣病や家族歴のないリスクの低い人たちでも同様の結果になるのか、地中海式食生活の他の食品の健康効果を差し引いて比較することはできるのかどうか、など興味は尽きません。
他の病気に対してはどうなのか、そしてそういった健康効果をもたらすメカニズムにはどんなものがあるのか。その辺りを次回以降またお話ししていこうかと思います。
次回に続く