OLIVE JAPAN®2025 国産オリーブオイルとフレーバードオイルに注目【後半】
前回に引き続き、「OLIVE JAPAN® 2025 国際オリーブオイルコンテスト」の審査会の様子や審査結果についてコンテストを運営する日本オリーブオイルソムリエ協会の多田俊哉理事長にお話を伺います。後半は、国産オリーブオイルの動向や、オリーブオイルの活用の幅を広げてくれるフレーバードオイルの見極め方や料理への使い方についてお話いただきました。【 OLIVE JAPAN®2025 国産オリーブオイルとフレーバードオイルに注目 】
編集部:日本産のオリーブオイルの風味は全般的にマイルドな傾向と言われていますが、国産エントリー商品の風味の傾向はいかがでしたでしょうか?
理事長:そうですね、国産オリーブオイルは全体的にマイルドなものが多いですね。日本の生産者さんにお伝えしたいことは「プーリア州産のコラティーナ種のような風味を目指されるのではなく、オーストラリアの例ではないですが、ふくよかでフルーティーな風味を目指され、香りに複雑性をつける」というのが勝負どころではないかと思っています。ただ、これを実現するには単一品種ではなかなか難しいかもしれません。
そうなると課題は、複数の品種で複雑な風味を作る技術を極めないと、国産オイルで国際コンテストで高い評価を受ける商品はできづらいのではないかと思います。多くのオイルは、マイルドで香りがほとんど無い、バナナの風味ならバナナだけが感じられるオイルになっています。スパイシーなオイルにはシナモンの香りしかしないので、フルーティーさは感じられない。もちろんコンテストの評価が全てではありませんが、消費者が食べることを考えても、フルーティーで複雑な香りがするオイルのほうが美味しいと感じると思うのです。
編集部:そのようなお考えがあって「オリーブオイルブレンダー®講座」も開講されているのですね。では、昨年対比で今年の国産エントリー商品に違いはありましたか?
多田理事長:昨年比で国内産の品種は「ルッカ種」が多かったです。理由はいくつかあると思うのですが、一つは育てやすいこと。そして何よりも大きな理由としては、日本でのオリーブ栽培において最も深刻な病気である「炭疽病」に強いと言われていることが多くの生産者がルッカ種を好んで植えた理由ではないかと思います。
ルッカ種単一品種やブレンドのオイルが増加傾向にあるわけですが、実はルッカ種は搾油率が低く、早摘みの場合であれば、極端なケースでは搾油率が5%を切ってしまうこともあります。100キロの実を搾っても、搾油率が5%ではたったの5キロのオイルしかできません。そして、せっかく取れたオイルは、ほぼシナモン・キャンティの風味のみ。輸入物のコラティーナ種や、ピクアル種、オヒブランカ種の複雑な香りやレトロネーザルと比較すると、あまりにも単調なのです。結果、出品商品の多くは銀賞に留まってしまいました。ルッカ種を植えることに反対はしませんが、オイルを作る時にどういう工夫をして、どんな風味のオイルを作りたいか、ということをよく考えないといけないステージに来ていると思います。
編集部:一方で今年、国産のオリーブオイルの金賞受賞は増えましたよね?
多田理事長:仰るとおり、国産オイルの金賞商品は増えたのですが、実は結構悩みました。複雑で多様な香りが乏しい単調さを「単調」だと言い切ってしまうと多くの金賞受賞商品が銀賞になってしまいます。それで味わいも含めて少しでも「美点」を評価して「金賞」受賞となるわけですが、高いレベルの金賞商品は正直あまり無くて、ギリギリ金賞となったものが多かったと思います。
その味わいの「美点」に関係するもう一つの背景には、日本の平均気温が高くなり暑く乾燥した夏が長く続くことにより、辛さがオイルに乗るようになってきたことも、金賞が増えた要因ではないかとにらんでいます。オリーブオイルの味わいは、苦さ辛さのバランス、香りと味わいの一致、すなわちハーモニーが何よりも大事だということをお伝えしつつ、日本の生産者さんにはさらなる風味の向上に向けてエールを送りたいと思います。
編集部: ちなみに、惜しくも受賞に至らなかった商品は何商品ぐらいありますか?
多田理事長:約200品ほどにはメダルを授与することができませんでした。エクストラバージン・オリーブオイルの品質に該当すれば、いずれかのメダルを授与しているのですが、品質が劣化し、不快な風味や臭い放ってるオイル、具体的には、腐敗臭、カビ臭、酸化臭などを感じた場合、これらの風味は料理の味を著しく損なう可能性がある欠陥風味なので、賞は出せません。銀賞とメダル無しには品質面で圧倒的な隔たりがあるのです。
編集部:今年は「マーガレット・エドワーズ記念特別賞」という賞が新設されましたが、これはどんな賞なのでしょうか?
多田理事長:マーガレット・エドワーズさんはニュージーランドの方で、このコンテストの審査員を長年務めていただきましたが、残念ながら2024年12月にお亡くなりになりました。管理栄養士、美容料理研究家、大学講師などを歴任、2003 年よりそれらの職をすべて辞してオリーブオイルの生産に専念された方です。

ニュージーランドを代表する国際的なテイスターとして活躍された故マーガレット・エドワーズさんの穏やかで包み込むような笑顔と 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】
旦那さんはお医者さんで、リタイアされるタイミングで、お二人で畑を買ってオリーブを植え、搾油所を作って、小規模ながら生産をされていました。通常のエクストラバージン・オリーブオイルの他に、レモンやオレンジのフレーバード・オリーブオイルも量産し、「アグロマート」法という、練り込み時にレモンやオレンジの果皮のみを投入して、遠心分離機に一緒にかける方法を早い段階で開発し実績を残してきた方です。
確固たる見識と生産者目線があり、OLIVE JAPAN®のフレーバードオイルの審査基準策定に大きな貢献をしてくれました。端的に言うと、香りが人工的か否かを見極めるところが、他のコンテストと一番大きな違いです。オイルには、きちんとエクストラバージンの良い風味があり、それにナチュナルなレモンやオレンジ、バジル等の自然な香りが乗っている。それが評価基準になったのです。わたしも彼女が生産している現場に何回もいって、一緒にレモンの皮を剥いて搾油をしたり、テイスティングも行い、勉強もさせてもらいました。
編集部:お話を伺うとオリーブオイルに情熱を注がれたとても魅力的な方だったのですね。この初代「マーガレット・エドワーズ記念特別賞」に選ばれた、最もすばらしいフレーバーオリーブオイルはどんなオイルだったのでしょうか?
多田理事長:受賞したのは「冷燻」という低い温度で燻製をオイルにつける、「アグロマート」法とは少々異なるやり方で作られたフレーバードオイルでした。作り方が違うことに逡巡はありましたが、このオイルが発売されて10年ぐらいの歴史の中で、今年の商品は殊の外出来栄えが良かったと思います。アルベキーナのオリーブオイルのフレッシュ感に、燻製の風味もかなりフレッシュで、オリーブオイルのフレッシュさを引き立てる出色の出来栄えで、この賞に値するという評価になりました。

栄えあるBest of Country 及びMargaret Edwards Special Awards 受賞商品 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】
編集部:フレーバードオイルは最初はインパクトはあるが、使うレシピが限られてしまい、賞味期限までに使い切れないという声もときどき耳にしますが。
多田理事長:フレーバードオイルを使う目的は、いくつかあります。一番大きなメリットは、食品に香りをつけるために「水分を使わない」ということなのではないかと思います。例えば、レモンの果汁を入れると元々の料理の味がレモンの水分で薄まってしまいますよね。レモン風味のオイルを使えば、水分は介在しないので、料理や食材自体の味わいが薄まり希釈されることはありません。
オイルには水が大敵なので、ドレッシングに水分を入れるとすぐに酸化してしまいますが、フレーバーオイルを使えば、オリーブオイルのフレッシュ感と香りのフレッシュ感をいつまでも楽しむことができます。水分が含まれていないので、賞味期限も短くなることなく、料理やデザートの風味づけにも使えるので、フレーバードオイルは料理の幅を広げる、ありがたい調味料です。
編集部:そんな効果がフレーバードオイルにはあったのですね。販売時のセールストークになりそうですね。そして、今年の審査会の雰囲気はいかがでしたか?
多田理事長:OLIVE JAPAN®の審査員は、日本オリーブオイルソムリエ協会が認定する海外及び国内の著名な公認テイスターの中からコンテスト事務局が選定し、招聘しています。2日間の審査会の審査は厳格に行われましたが、海外の審査員たちはOLIVE JAPAN®の審査会に来るのを本当に楽しみにしているようです。
経験抱負な審査員たちにとっても、29カ国のオリーブオイルを一度にテイスティングできる機会はほとんどありません。OLIVE JAPAN®では1日目は、予備審査後の商品の中から銀賞か金賞の判定に迷うもの、あるいはメダルなしか銀賞の判定に迷うようなものを集中的に審査します。評価がきわめて難しいものも多いのですがそこで審査員間の価値観の共有ができます。

品質が突出したオイルが審査対象になると席を立ち「美味しいので貴方も食べてみて!」と他のグループに持っていく審査員の姿も【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】
多田理事長:2日目はいよいよ最優秀賞を決定します。最優秀賞候補のオイルとして今年は60数品ありましたが、そこから最優秀賞を決めるので、2日目はまさに世界のトップレベルの品質のオリーブオイルばかりをテイスティングすることができます。私の実行委員長席から見ていてもいいオリーブオイルを心から楽しんでいる様子が印象的でした。3人〜4人のグループに分かれてテイスティングを行うのですが、あまりに美味しい、品質が突出したオイルが審査対象になると、審査後に「美味しいので貴方も食べてみて!」と他のグループに持っていく様子もOLIVE JAPAN®ならではないでしょうか。
編集部: 日本市場についても伺いたいのですが、世界的にオリーブオイル生産量や質が安定しない、輸送コスト高騰、円安という、インポーターにとってのトリプル・パンチも耳にしますが、これからのインポーターの方々のビジネスはどのようになるとお考えですか?
多田理事長:インポーターさんに気がついてほしい事があります。それは、黙っていてもお客さんの幅は広がらないということです。お客さんになってもらいたい人にオリーブオイルのことを知ってもらわないと、いつまで経ってもお客さまの層は広がりません。
オリーブオイルを販売するためには、オリーブオイルのことを消費者にもっと知ってもらう必要があります。オリーブオイルの啓蒙に本格的に取り組まないとどうにもならないのではないかと感じています。実際、当協会でセミナー参加者を募集しても、生徒さんはほとんど増えておらず、オリーブオイルを新たに学ぼうとしている人は増えていません。そのような状況ではインポーターさんの数が増えてもなかなか売れないのではないかと思います。オリーブオイルについてもっと知っている人を増やす、楽しみながらエクストラバージン・オリーブオイルを使う人を増やすことが大事だと思います。
多田理事長:そのためには、オリーブオイルの知識や魅力を伝える工夫をもっとしてもらいたいと思います。オイルをそのままカップでテイスティングしてもらい、良さをわかってもらうのは、あまりに短絡的とも言えます。スパイシーなコラティーナ種をいきなりオリーブオイルに馴染みのない人に食べてもらおうとしても、多分その辛みや苦みに驚き食べることすら拒否されるかもしれません。また、コラティーナ種をパンにつけてテイスティングしてもらうと、その強い苦みでパンもまずくなり、この値段の高いオイルの何がいいの?ということにもなりかねません。少なくとも、コラティーナ種だったら、こういう食べ方や料理がオススメ等、インポーターさんや販売する人たちには研究したり、工夫を凝らしていただきたいと思います。
皆さんが、それぞれ考え悩みながら販売されていることは感じます。ただ、オリーブオイルは食べ物なので、おいしく見せることがとても大事です。健康に良いという理由だけで、コラティーナ種を買おうと思う人は少ないでしょう。体にいいから、不味くても食べるというのでは本末転倒です。体に良いという理由だけで推されてきた食べ物は廃れています。オリーブオイルは廃れさせるにはもったいない、本当においしい食品であり調味料だと思います。
編集部:オリーブオイルの美味しさに最近気付いた!という消費者の方も多いと思うのですが、いいオリーブオイルの選び方や楽しみ方のアドバイスをお願いします。

生姜のようなピリッとした辛味もオリーブオイルの特徴的な風味の一つ

ダークチョコレートのような苦みのあるオリーブオイルに合う料理は?と想像するのも楽しい
理事長:できるだけテイスティング、試食して買ってほしいと思います。オリーブオイルにはマイルドなものから、苦くて、辛いものもあります。ただ、どれもオリーブオイル単品でそれを飲むわけではなく、料理をよりおいしく食べるために使っていただくものです。
苦いオリーブオイルを料理でどのように活用できるか?これは簡単ではないと思われるかもしませんが、ヒントは苦い食べ物は他になにがあるか? それをどうやって食べているか?と想像するところにあります。辛いものは比較的わかりやすくて、生姜やわさびで辛さを体感できるので、他の調味料の代わりになるイメージは湧きやすいかもしれません。苦い調味料はあまりないですよね。でも、頭を柔らかく考えてみると、ビールもチョコレートも苦い。苦くて美味しい!鮎はどうやって食べているのか?塩と酢で食べると初夏のご馳走になりますね。そういう遊び心ある料理での使いこなしをクリエイティブに楽しんでほしいと思います。
編集部: 長時間にわたり取材にお付き合いいただきありがとうございました。最後にこの記事の読者に伝えたいことがあればお願いします。
多田理事長:皆さんに改めてお伝えしたいことは、「コンテストの使い道を誤らないでほしい」ということです。受賞メダルの色の違いに、オリーブオイルのグレードの優劣があるとは受け止めないでほしいと思っています。受賞メダルの色の違いは優劣の差ではなく、オイルの定性的な違い、つまり味わいの「個性」です。最優秀賞受賞オイルなのでどんな料理に使っても美味しいということは決してありません。また銀賞のオイルだから、最優秀賞や金賞のオイルに敵わないということではありません。銀賞のオリーブオイルの方が、日々の料理に使いやすいことは多々あります。
OLIVE JAPANⓇコンテストのメダルの色は、オリンピックのメダルの色の評価とは違います。この「eオリーブオイル選び」のサイトにも、各商品に風味インデックス表示があり、それをぜひ見てほしいと思います。オリーブオイルの選び方は、メダルの色ではなく、自分が合わせたい料理で決めていただきたいと切に願っています。

OLIVE JAPAN®の審査員は、日本オリーブオイルソムリエ協会が認定する海外及び国内の著名な公認テイスターの中からコンテスト事務局が選定し招聘 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】
編集部:多田理事長、長時間にわたりありがとうございました。
「OLIVE JAPAN® 2025 国際オリーブオイルコンテスト」の様子から、生産者やオリーブオイル業界の方々、そして何よりオリーブを愛する生活者への熱い想いが伝わってきました。
OLIVE JAPAN® 2025コンテスト受賞商品は「eオリーブオイル選び」のこちらのページから、検索ができます。ぜひ一人でも多くの方に新しい素晴らしいオリーブオイルとの出会いを楽しんでいただきたいと思います。