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OLIVE JAPAN®2025 エントリー傾向と2026年度の新たな取り組み【前半】

OLIVE JAPAN® 2025 国際オリーブオイルコンテスト」の審査結果が発表されたのは、6月6日早朝のこと。今年度のエントリー総数803品から、5月26日・27日の本審査により厳正な審査が行われ、最優秀賞8品、多田俊哉オリーブオイルソムリエ®特別賞10品、金賞339品、銀賞237品、ならびに各国ベスト賞、マーガレットエドワーズ記念特別賞1品が決定。編集部はコンテストを運営する日本オリーブオイルソムリエ協会の多田俊哉理事長に、コンテストから見えてきた各国のオリーブ産地の「いま」を伺ってきました。【 OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み 】

OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み

取材に伺ったのは、7月中旬、猛暑日のお昼過ぎ。国際オリーブオイルコンテストの審査会とその後の「OLIVE JAPAN® SHOW☆まるしぇ」を無事に終えて、のんびりと過ごされているのかという予測を裏切り、来年度のコンテストに向けて新たな構想を練り始めている多田理事長が待ち受けていました。

編集部:今年のコンテストの審査と発表を無事に終えられて、今のお気持ちはいかがですか?

多田理事長今年度もおかげ様で無事に審査会とまるしぇを終了し、安堵しました。7月から8月はゆっくり過ごしたいと思いますが、9月に入ったらオリーブ産地を訪れて、作柄状況の情報集めに動き始めたいと考えています。特に来年度のコンテストでは「テーブルオリーブ部門」を新設する予定で9月、10月にはテーブルオリーブ評価のプロトコルを固めていかなければいけない時期になります。

編集部:それはビッグニュースですね!OLIVE JAPANでテーブルオリーブの審査を行うのですか?

多田理事長:はい、その構想があります。テーブルオリーブはいわゆるオリーブの実の漬物で、スペインはじめ地中海沿岸の国々では、様々なメニューのお供に、あるいはそれ自体 “お通し”として、ワインやビールとともに出てきます。自家製のテーブルオリーブを出す店も多く、味の違いも楽しめます。実は世界のオリーブ産地では、オリーブオイルを作っている農家さんが、テーブルオリーブも作っているケースが結構あります。日本ではテーブルオリーブの市場規模はまだ小さく、店頭やレストランで出てきても品質や味わいにはあまり関心を持たれていないのですが、これから拡大の余地は十分あると考えています。ただ、海外でもテーブルオリーブを評価するメジャーなコンテストはロンドン、ギリシャ、オーストラリアなど数少なく、来年度審査会を行うことで、テーブルオリーブの品質の周知や啓蒙を行っていきたいと考えています。


編集部:それは楽しみですね。オリーブオイルとテーブルオリーブの評価方法や品質の基準は異なりますよね?審査員はどうされるのでしょうか?

多田理事長:仰るとおり、オリーブオイルとテーブルオリーブの評価基準は全く異なるのですが、実は審査員にはオイルと実のいずれの審査もできる人がたくさんいます。来年はOLIVE JAPAN®審査会の日程を1日増やして審査をしてもらおうと考えています。ただ、少し悩ましいのは、審査会が5月下旬の予定なので、日本の新漬けテーブルオリーブのエントリーが難しくなるのではないかということなのです。

編集部:国内でもオリーブの実の塩漬けが最近、人気ですよね?なぜ、国産テーブルオリーブはエントリーが難しいのでしょうか?

多田理事長:国産のテーブルオリーブはほとんどが、9月から10月に収穫された実を生で塩漬けにして販売していますが、賞味期限がかなり短く設定されているのです。一方、海外生産のテーブルオリーブの多くは実を発酵させ加工食品として長い賞味期限を設定し楽しめる商品として販売されています。同じテーブルオリーブでも加工方法が異なるので、新漬けと加工商品とクラスを分けて審査をするなど、現在、プロトコルの体系を詰めているところです。わたし自身もテーブルオリーブを海外で審査したことがありますが、もう少し評価方法などを深めていかないといけないと思っているところです。

編集部:いきなり、来年度のビッグニュースを教えていただいたのですが、ぜひ今年のコンテストで見えてきたことも教えてください。まず、エントリー数は例年と比べていかがでしたか?

多田理事長:まず、生産量世界ナンバー1のスペインは、数量的には、2021年から続いた干ばつによる大不作の前の水準に戻りつつある印象ですが、完全に戻ってはいないと見ています。多い時でスペインからは250を超えるエントリーがありましたが、今年度は231品という水準でした。OLIVE JAPAN®のエントリーは例年スペイン産が全体の40%弱を占めるので、スペインからのエントリー数がどうなるかが、全体数に大きな影響を及ぼします。イタリアも似た傾向で、多い年は150エントリーを超えていましたが、今年は140品程度で、完全には戻っていないのかもしれません。

OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み

世界で流通するオリーブオイルのおよそ半分はスペイン産。その中心地、南部のアンダルシア地方の景観はまさに「オリーブの海」

一方で、ギリシャは過去のエントリーは70〜80品がピークでしたが、今年度も68エントリーを数え、エントリー数的にはだいぶ戻ってきた感じがします。その他の産地はボリュームも大きくないのでエントリー数に大きな差はないのですが、今年度は、受賞こそかなわなかったものの、サウジアラビアモンテネグロという、もともとオリーブオイル生産国であったけれど、従来は高品質のプロダクトを出していなかった地域からのエントリーがありました。結果トータルで見ると、エントリー数は800を超え、2020年以来の数値に戻りつつあります。

バルカン半島に位置する美しいモンテネグロはぶどう栽培だけでなく、歴史あるオリーブの産地でもある

編集部:では、今年エントリー商品のエリアごとの質的な傾向はどうでしょうか?

多田理事長:質的にはだいぶ様変わりをしていますね。

スペインは、量は戻りつつありますけれど、質は以前のレベルには戻っていない印象です。特に大きな異変はピクアル種に感じます。ピクアル種はハエン・アンダルシアの代表品種ですが、今年度の審査結果で最優秀賞の中にピクアル種が1つもないのです。OLIVE JAPAN®が2012年に始まって以来、ピクアル単一品種で最優秀賞をとっていない年は非常にまれでしたので、これは大きな異変です。多田俊哉賞にもありませんでした。スペインの主力品種のピクアル種の品質的な回復ができていないことの象徴だと思います。

OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み

12月に入っても色づかないピクアル種果実 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】

編集部:昨年度のスペインの天候は一昨年よりオリーブ栽培にはかなり良かったという報道も耳にしましたが、それでもオイル品質への影響は出ているとお考えでしょうか?

多田理事長:ここ3年間ほどの天候の影響が、オリーブの木に残っていると言えるのかもしれません。果実は結実したようですが、熟成、完熟のプロセスがまだ正常に戻っていない気がします。実際、昨年12月にはハエン・アンダルシアに行ってほとんどピクアル種ばかり現地で視察しましたが、実が十分熟していないのです。木に実がついていても、いつまでもグリーン色で色が熟成色に変わっていかない、追熟のプロセスが通常通り行われていない畑が多くありました。このような状況がアンダルシアのいろいろな地区で起こっていました。果たして今年のオリーブの品質が元に戻っているか、できれば現地に見に行ってみたいと思っています。

編集部:日本の消費者に人気のイタリア産のオイルの品質の傾向はいかがでしたか?

多田理事長:イタリアは、ほぼ全土に広がる栽培地の中で、出来不出来の差が激しかったという印象です。同じ南部でもシチリアは良かったが、プーリアは南と北でだいぶ状況が違ったと感じました。どうしてこういう風になっているのか?と思いました。

最優秀賞8品うち4品はイタリア産のオリーブオイルでしたがほぼほぼ、全部が南部エリアの生産地からのものでした。3品がプーリアから、1品がシチリアから。中部から北部がないのです。多田俊哉賞もプーリアから3品、シチリアから1品と同じ傾向で、南部に質の良いものが集中していました。特にシチリア産に質の良いものが多かったように記憶しています。

イタリア地図のかかとの部分に位置するプーリア。「トゥルッリ」と呼ばれる円錐形の屋根に白壁の家屋群が有名。海岸線側と内陸部の気候が異なり、適する農産物は微妙に異なる

編集部同じ地域のオリーブオイルでも、品質の傾向に差が出ることもあるのですか?

多田理事長:例えば、プーリアで毎年、高品質のオイルを作リ続けている生産者さんもいます。搾油の技術もあるかもしれませんがそれ以上に、実を上手に作っているかどうかが影響します。上手に作っている人たちの畑の美しさを見ると一目瞭然です。

果実の出来を天に任せず、常に手の行き届いた畑を作る人は品質の良いものを作る傾向にありますね。農業においては、畑の灌漑や管理へのこだわりが最終的なオリーブオイルの品質に大きく影響してきます。スペインもイタリアも灌漑施設が整備されている畑は約2割程度。高品質オリーブオイルを作り続けている生産者さんが全て灌漑農園で生産しているというわけではありませんが、設備がなければ水を撒く工夫を施したり、あるいは干ばつにも耐える強い品種を栽培してみる等、工夫をすることで一定以上の品質のオリーブオイルを毎年作り続けています。

編集部:気候変動の影響で、目指した品質のオリーブオイルができなかった生産者さんは、その年のコンテストへのエントリーを見合わせる方がよいとお考えですか?

多田理事長:大事なことは、生産者さん自身が、作ったオリーブオイルの品質を正しく見極められているかどうかだと思います。毎年続けてエントリーして、発表されるプロフェッショナルな審査員の評価結果を定点的に参考にすることには意味があると思います。

OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み

OLIVE JAPAN®の審査会では評価が分かれそうな商品については必ず2つまたは3つ以上のグループで話し合いながら審査を行う 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】

正直、評価はコンテストによって異なることもあり、OLIVE JAPAN®で銀賞だった商品が、他のコンテストでベスト・オブ・クラスに入っている場合もあります。背景には、エントリー商品のサンプル・ロットが違うかもしれないし、審査プロトコルが異なることも往々にしてあります。いくつかのコンテストに出してみて、その評価を参考にすることをおすすめします。OLIVE JAPAN®は正確に判定するための厳格なプロトコルを採用しているので、一人の審査員や一つのグループの審査結果で賞を決めることはしません。特に評価が分かれそうな商品については必ず2つまたは3つ以上のグループで審査を行い、結論にブレが出ないようにしています。

編集部:その他のエリアの品質はいかがでしたか?

多田理事長ギリシャにも注目していますが、ギリシャのオイルは量は戻ったようですが、品質はあまり芳しくない傾向だったような気がします。推測ですが、この2年ぐらい半端ない大凶作だったと聞いているので、作柄は戻っても生産者さんもビジネスなので、量を少しでも多く取りたいという心理的プレッシャーが熟度のコントロールを量産方向に振って、未成熟より完熟まで待ってオイルの量を増やそうとする傾向があったのではないかと思います。(一般的にオリーブオイル作りでは熟度が増すほど、搾油できるオイルの量は増えます。)

1年ぐらいの凶作だったら農家さんも耐えられるかもしれませんが、自然の作物のオリーブが2年、3年続けて凶作という、一生のうちに1回あるか無いかの状況が発生してしまうと、農家さんも生き残るために様々な対応を考えざるを得ないのではないかと思います。外の農園からオイルを買ってブレンドしたり、少しでも量を多く搾油することを重視しても不思議ではありません。ただ、その流れから従来の方法に戻るのは容易ではなく、この傾向はギリシャだけでなく、スペインやトルコでも無いとは言えないと思います。トルコで昨年まで金賞以上を取り続けていた会社でも、今年は金賞を受賞できず生産者さんのご苦労が一層感じられました。

編集部:アフリカや南半球のオイルの傾向はいかがでしたか?

多田理事長:チュニジアをはじめとするアフリカ諸国は少し特殊で、いわゆる「隔年結果」の傾向が強く、収穫量の増減による「表年」と「裏年」があり、今回の審査対象のオイルは「裏年」のオイルでした。ただ、作柄は悪い中にあって、最優秀賞が出たことは嬉しい驚きでした。昨年もこの生産者さんは良い賞を受賞しており、裏年であっても継続的に良いものを作り続けています。

ただ全般的に、このエリアからの出品量は少なめです。もともと収穫時期は遅めですが、昨年の収穫時期はさらに遅くなったようで、例年エントリー常連の会社で商品を送付してこない会社が何社かあり問い合わせをしたところ「まだボトル詰めをしていない!」「(スパイシーなものを好まない)アメリカ市場向けに完熟のオイルを搾油して出荷するので大丈夫だ!」という、裏年だからこそ起こり得る会話もありました。そんな中、最優秀賞受賞のチュニジアのオリーブオイルを扱っている会社はアメリカ向け販路は展開しておらず、日本に住んでいるチュニジア人が生産者と共に作っており、生産量より品質を第一に考えたということではないかと思います。

編集部:南半球、オセアニアのオリーブオイル生産量も増えているようですが?

多田理事長:南米、特にアルゼンチンの生産者は増えていて、全体的な品質のレベル向上が毎年目覚ましいです。今年度は最優秀賞こそありませんでしたが、多くの会社が品質に目覚めて、品質向上への機運が高まっているようです。そういう生産者の中から今後、さらに最優秀賞が出るかもしれないという予感がします。チリは一時期伸びていましたが今は横ばい。その一方で、ペルー産の品質が良くなってきて、今後はペルーも期待できるかもしれません。

オーストラリアは、あまり変化が感じられませんでした。地元の国内市場が大きいので、作っているオイルの多くは、南イタリアのスパイシーな感じとは全く違う、国内需要向けの風味プロファイルになりやすいです。それを、他国と同じ評価軸で比べるのは難しいのではないかと感じています。ふくよかで、フルーティーで、マイルドさの中に複雑性があれば良い賞がとれる可能性は十分あり、実際、今年度、多田俊哉賞を受賞したオーストラリア産のオリーブオイルはそうした風味傾向でした。

編集部:品種面で特筆すべき傾向はありましたか?

多田理事長:単一品種で多かったのは、早い時期から実が成る早生品種であり、青草のとても濃い緑の香りが特徴的な「コラティーナ種」が数多く出品されました。コラティーナ種単一とコラティーナ種のブレンドで40品以上のエントリーがありました。実は、コラティーナ3品に最優秀賞、さらに多田俊哉賞を入れると実に5品もの商品に優秀な賞を授けるのは、どうしたものかと思いましたが、実際に甲乙つけがたいほど素晴らしかったので、結果的に授賞となりました。

このように、世界的なコンテストでは、スパイシーなオイルが最優秀賞を受賞する確率は高いのではないかと思います。逆に言うと、マイルドな風味で複雑性や鼻に抜けるレトロネーザルが印象的ないいオイルはあるものの、審査会ではそのようなオイルはなかなか評価されにくいのではないかと思います。他の審査会でもOLIVE JAPANⓇでもここは審査員の意見が分かれるところになっています。コラティーナやピクアルなどのスパイシーなオイルを食べ慣れている審査員の中には、マイルドな風味で複雑性のあるオイルは食べ慣れておらず、「欠陥オイルではないのか?」という意見が出ることもあります。OLIVE JAPAN®審査会では、ここのところは慎重に審査員間で議論を行います。

OLIVE JAPAN®2025 のエントリー傾向と2026年度の新たな取り組み

エントリー総数803品から厳正な審査の結果、OLIVE JAPAN® 2025 国際オリーブオイルコンテストで最優秀賞に選ばれた8品 【画像提供:日本オリーブオイルソムリエ協会】

※前半はここまでです。次週公開されるインタビュー後半では、国産オリーブオイルのエントリー状況や品質、そして日本のオリーブオイル市場の動向について、引き続き多田理事長に話を伺います。

※尚、OLIVE JAPAN®2025受賞全商品は「eオリーブオイル選び」のこちらの検索ページから受賞メダル、生産国、国内販売有無や風味の傾向等で検索できます。ぜひご利用ください。

   
     
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