地中海式食生活でゆっくり食事をすることの意外な健康効果
こんにちは。医師でマスターオリーブオイルソムリエ®️の浅井洋貴です。先日「日本抗加齢医学会総会」に参加してきました。この学会では内科、外科といった科毎の分野別の議論ではなく老化防止、美容、生殖医療、再生医療など、科をまたぐ分野について横断的に議論をする学会です。参加者も医師だけでなく、看護師、栄養士から、ヘルスケアベンチャーの方々まで様々です。新たな気づきも多く、毎年参加をとても楽しみにしています。【 地中海式食生活でゆっくり食事をすることの意外な健康効果 】
食分野のセッションももちろんあり、オリーブオイルに関する演題も毎年あるので期待していたのですが、今年はオリーブオイルそのものの健康効果を示す演題はありませんでした。オリーブオイルに限らず、一つの食材の健康効果に関しての演題は年々少なくなってきており、これは、食事というものがとても複合的な要素が絡み合っており「あれを食べたからこの病気が良くなる」という単純な世界ではないということの表れなのかもしれません(この辺りの話は、第1回の記事で書いているので興味ある方は目を通してみてください)。
もちろん手ぶらで帰ってきたら、話がここで終わってしまうのですが、そんなはずもなく、オリーブオイルについての話題はなかったのですが地中海式食生活についての話しはありました。オリーブオイルが柱の一つとなっている地中海式食生活による心疾患イベントの減少については、以前にもご紹介しましたが、今回は新たな側面のお話をしようと思います。
地中海式食生活といえば、オリーブオイルによる悪玉コレステロールの減少効果といった話になりがちですが、食材の内容以外にも重要なポイントがあります。それは、
「適量のワインを飲みながら、仲間と共に食卓を囲み、語らいながらゆっくり食事を摂る」
という点にあります。ユネスコの無形文化遺産はライフスタイルを対象にしているため、食材の内容以外にも、食事の摂り方といった点も同じ位重視しています。仲間との楽しい語らいでは、俗に幸せホルモンと言われるオキシトシンの分泌が増えると言われています。これは学会でも老化防止ホルモンとして注目されているもので、ペットやパートナーとのスキンシップ等でも多く分泌されるものです。
そしてゆっくり食事を摂るという点がとても大切で、人間は食事を摂ると血糖値が上がり、血糖値を下げるインスリンというホルモンが分泌されます。この一連の、食事を摂る→血糖値が上がる→インスリンが分泌される→血糖値が下がるという血糖値の上下動の事を血糖スパイクといいますが、食後の高血糖による急激な血糖スパイクが、糖尿病や心血管疾患の発症にとても悪い影響を及ぼすことがわかっています。
つまり、急いで食事を摂ることで食後に一気に血糖値が上がり、その血糖値を下げようとしてインスリンが膵臓から大量に分泌され、そして一気に血糖が下がることにより、急峻な血糖スパイクが出来上がってしまうのです。これにより膵臓や血管に負荷がかかります。
また、食事により適切にインスリン分泌が起こり血糖値を下げることは大切なのですが、インスリンが一度に急激に大量に分泌されることで太りやすくなってしまいます(血糖値を下げるということは、血管から細胞の中に糖を取り込むということで、過剰な糖が脂肪に変換されます)。
イタリア料理店などにディナーに行くと、最初に野菜や前菜が出てきて、その後にパスタ、その後に魚、肉と続いて最後にドルチェ(デザート)が出てきますが、これはいきなりパスタから始めず、血糖値の吸収を緩やかにする食物繊維を最初に摂り、急激に血糖値が上がる炭水化物や甘いものを後回しにすることによって、多量のインスリン分泌を抑えるという点でも理にかなっています。
実際に、野菜やタンパク質から食事を始めると、食後の高血糖が抑えられるデータは多数あります。こちらの記事がとてもよくできていますので、参照してみてください。
忙しい毎日で心に余裕がないと、まるで動物がエサを食べるように、ついつい一人で食事をがっつくように摂ってしまうこともあるかと思いますが、ぜひ皆さまには意識してゆっくり食事を摂るということを心がけてみてください。
今回は少しオリーブオイルから脱線しましたが、このあたりで。
◆今回のポイント ・地中海式食生活は食材以外にも、 食事の摂り方も重要 ・ゆっくり食事を摂ることで、 急激な血糖上昇が抑えられる ・仲間と語らいながら食事をすることで、 オキシトシンの分泌も増える Bon Appetit!!