『いいオリーブオイル』を選ぶために、知っておきたい本当のこと
私たちがそう願うのには、理由があります。世の中にはまがいもののオリーブオイルもたくさん出回っていて、それらを外から見分けるのが難しいのです。
「いいオリーブオイル」と出会うために、まず知っておかなければならない大切なことを、日本オリーブオイルソムリエ協会理事長の多田俊哉さんに、教えていただきました。
●オリーブオイルは生ジュース
たくさんの人たちがオリーブオイルを買うようになっても、気が晴れないことが一つある。魚の小骨が喉に突き刺さったような想いを、しばらくずっと抱いてきた。
例えば、この記事のタイトル「いいオリーブオイル」って何だろう?。
みんながちゃんとオリーブオイル選びをできているのだろうか?
そもそも「いいオリーブオイル」とは、どんなものだろう?
『悪い』オリーブオイルがあるとしたら、どんな問題があるのだろう?
本当は多くの消費者の皆さんにきちんと勉強してほしいけれども、今日はこの記事をご覧いただいている方限定で、その本当のところをこっそりお伝えしよう。
最初に申し上げたいのは、オリーブオイルは、生の野菜や果物と同じ、ということ。でも、腐らないし、日持ちもするのでは?と思われるかもしれない。また、瓶に詰められ封もされているので、工場でしっかりと管理されて作られている、と思う方も多いだろう。
確かに、しっかりと管理・・・という部分は当たっているものも多い。それでも、生の野菜や果物と同じという部分は変わらない。
その答えはオリーブオイルの作られ方にある。世界には多くのオリーブオイル製造場があるが、基本はどこも同じ。生のオリーブの実を秋から冬に収穫し、すぐに採油工場に持ち込んで実から油分を搾り取る。工程中、抽出のための薬剤や添加剤は一切使わず、実の液体分を搾り水と油を遠心分離機で分けるだけ。エキストラバージンオリーブオイルなら、加熱殺菌も精製もしない。2時間もあれば、生の果実が搾りたてのオリーブオイルに生まれ変わる。
つまり、オリーブオイルは、オリーブ果実の「生」のジュースってこと。
だから、生の野菜や果実と変わらない、ということになるのである。
●「いいオリーブオイル」を作るには手間暇がかかる
なんだ、搾るだけか!と思うなかれ。実はこの一見かんたんな製造工程に、品質の良し悪しに関わる決定的な重要ポイントが隠されている。数多くの「いいオリーブオイル」は、もちろんその入り口からオイルが出てきて最終的に瓶詰めされるまで、厳格かつ詳細に品質管理されている。
一方でその管理を怠るとどうなるのか?
例えば搾る前の果実。「いいオリーブオイル」を作るためには、新鮮で瑞々しい収穫したての果実が必要。畑で実を摘んで、短時間のうちに搾れるかが勝負となるが、これは実際にはかなり大変だ。広大なオリーブ畑は数千ヘクタールにも広がり、搾油場までは距離がある。収穫しながら運搬して、という途方もない作業の繰り返しで、コストがものすごくかかる。だから、そこをケチって、一定期間貯蔵しながら搾油場に持ち込まれるようなケースや、場合によっては地面に落果したものや過熟で腐敗が始まった果実が混ざっていることも決して少なくない。
こうして作られた「良くない」オリーブオイルは、だいたい臭い。発酵したことを示す酸っぱい臭いやドブのヘドロのような悪臭が漂う。とても食べ物の臭いとは思えないけれども、そんなオリーブオイルが実際には店頭にたくさん並べられている。
●いいオリーブオイルを外から見分けるのは専門家でも難しい
オリーブオイルは、食用油としてはその値段がかなり高い。普通のサラダオイルの10倍はする。大流行したあのココナッツオイルだって、オリーブオイルの半額ほどで買える。値段が高い理由は、それだけ作るのに手間がかかるから。だが、そのことが不幸の始まりともいえる。悪意のある人々にとって、値段が高いことはたくさん儲かることを意味するから、もっとも古い食用油であるオリーブオイルは、人類史上数千年もの間ずっと品質偽装の歴史を重ねてきた。
他の安い油を混ぜたり、あるいは手を抜いたりして粗悪な品質のオリーブオイルができても、美しいボトルに詰めて、美辞麗句のちりばめられたきれいなラベルを貼ってしまえば高く売れる。ボロ儲けである。かくて、市場には粗悪で「高価な」オリーブオイルが溢れることになった。
もちろん、こんな状態をそのまま放置しておいて良いとは誰も考えていない。古代ローマ世界から、オリーブオイルの品質を規制する法律があったし、今だって、立派な国際規格がある。ただ、残念ながら、その立派な国際規格は、まったく守られていない。品質を認証する人たちが脅迫され、あるいは買収されて忖度だらけの認証を繰り返す一方で、たくさんできてしまう低いグレードのオリーブオイルを売らなきゃならない政府は、そんなでたらめな状況に見て見ぬふりをする。公的に品質を認証されたオリーブオイルが、実はまがいものという、消費者にとって悲劇的な状況がいまも続いている。実際に、専門家といわれる私でも、それが初めて見るオリーブオイルであった場合、味見をするまでは、ボトルだけを見ても中身の品質の良し悪しはわからない。いろんなことがボトルに書いてあっても、いっさい信じることはできず、中身の品質は、まったくわからない。
●オリーブオイル、本当にあった怖い話
では、市場にあふれるダメなオリーブオイルは、買ってはいけないのか?
少しくらいなら、あるいは加熱して使えば大丈夫なんじゃないか?
まあ、いろんなことが言われているけれども、ダメなオリーブオイルの実態をもう少し知った方が良いと思う。何しろ、それを作って流通させているのは、品質を偽装してまで不当に利益を上げようとしている人たちだ。そんな人たちに、食の安全安心を遵守する良心を期待できるだろうか?
海外の事例にはなるが、かつてこんなことがあった。
ピーナッツアレルギーの方が、誤ってピーナッツを摂取しないよう日常使う食用油をすべてオリーブオイルにしてきたが、ある日買ってきたばかりのオリーブオイルを使ったパスタを食べたところ、アナフィラキシーショックを起こして生死の境をさまよった。幸い一命はとりとめたが、原因は、オリーブオイルだと表示されて買ってきたものに、ピーナッツオイルが多く含まれていたことだった。
また、今から30年ほど前のスペインでは、菜種油に有機溶剤のアニリンを溶かしたものを「オリーブオイル」として販売、800名が中毒症状で亡くなり数万人に健康被害が出るといった、悲惨な健康被害も起きている。
もはや、少しくらいなら、とか加熱すれば、といったレベルの問題ではない。「いいオリーブオイル」をきちんと選ばないと、取り返しのつかないことが起きるし、現に起きていたのだ。
●いいオリーブオイルを選ぶために
真剣に「いいオリーブオイル」を選ばなきゃ、という気持ちになっていただけただろうか?なんか難しそう、と思われるかもしれないが、そんなことは全くない。ありがたいことに、このサイトのように「いいオリーブオイル」を紹介してくれるサイトもある。専門家が毎年集まって世界の主要なオリーブオイル製品を一本一本審査してくれて品質を鑑定評価してくれるコンテストもたくさん開かれている。オリーブオイルの世界では、皮肉なことに「公的」な認証は一切あてにならないけれども、民間の品評会は参考にするに値する。だから数多くの生産者がこぞってコンテストに参加する。
自分で良し悪しを見分けられるようになったらベストだけれども、最初はこうした専門家の助言で「いいオリーブオイル」を選んで、使い始めてみよう。
新しい食の感動の世界が、これまでの数十倍も数百倍も広がっていくはずである。(多田俊哉)